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HUSKYを受け継ぐ-3

いまさら聞けないHUSKYの使い方

三脚は「こう使わなければならない」という決まりがあるわけではありません。プロカメラマンの方はそれぞれ自分の使い方があると思いますし、アマチュアの方も撮影結果がよくなるよう試行錯誤されていることと思います。考えてみると三脚の使用方法について特化した技術書はほとんどないのですが、今回は三脚を使った撮影方法のテクニックではなく、HUSKYを使っていただく上での注意点や、傷みを防ぎ長持ちさせるコツについて書いてみたいと思います。


そもそもの三脚の選び方

撮影には色々な場面がありますので、三脚での撮影を熟知された方はそれぞれの用途や搭載する機材によって脚パイプの太さや、いっぱいまで伸ばした高さを考慮しながら使用する三脚を選定されると思います。初めて三脚を購入される方はスペック表に目が行ってしまいがちですが、各社三脚の最大パイプが32mm径のクラスでは一眼ボディ+300mm f/2.8程度のレンズまで、使用高は各三脚の最大高の80~90%程度というのが目安になります。70-200mmレンズや100-400mmレンズではどのクラスの三脚を選んだらいいのか迷うかもしれません。ワンランク下の三脚の方が軽くて持ち出しやすいという方もいらっしゃるでしょう。もちろんそれを否定はしませんが、この記事を読んでいただいている方は少なくともスマホで撮影した画像では満足されない方だと思います。風が強かったり少々不安定な場所など条件が悪い撮影はいくらでも有り得ますので、三脚の選定には余裕を多めに見ておくことをお勧めします。

一般的に三脚選定のときによく使用される用語は“耐荷重”と“アイレベルの高さ”ですが、いずれもあまり意味のない数字です。耐荷重には一応国内基準はあるのですが、海外製品がほとんどとなってしまった現状では目安にもなりません。またアイレベル(目線)の高さを基準に三脚を選ぶと、必要な時にそれ以上伸ばすことができません。逆に言えば、足元が水平な場所で、目線の高さまででしか使えない三脚となってしまいます。後述の通り撮影場所が常に平らだとは限りませんし、どの高さから撮影するかによって同じ風景でも見え方がかなり変わります。アイレベルでの撮影、ローアングルでの撮影はよく語られますが、ちょっと上からの撮影という視点を持っている方は少ないように思います。もちろんフェンス越しの撮影など高さが必要な撮影や、不整地で脚を1本だけ伸ばさなければ三脚が設置できない経験をされている方は“伸ばせることが武器になる”ということを熟知されていると思いますが、これから三脚を選ばれる方が三脚の高さを限定してしまうとその範囲外からの撮影という選択肢を無意識のうちに切り捨ててしまっているかもしれません。三脚の高さにも余裕を持っておくと、撮影の幅にも余裕が出てきます。

よく「重く大きな三脚を買ってしまうと結局持ち出さなくなる」という話しをされる方がいますが、おそらくその方にとっては三脚は絶対必要な道具ではないのだと思います。私は学生時代に競技スキーをしていましたが、本当のアマチュアで楽しみだけのためにやっていた部活でも、最低限スキー板2セットとブーツ、ウェアを担いで移動していました。スキー板は重いからSLでもGSでも同じ板でいいやとは絶対になりません(専門的な話で申し訳ありません)し、ブーツも自分の足に合わせて、板も滑り方や雪質に合わせて自分なりのチューニングをするのが当たり前でした。全て必要な道具なのでどんなに重くても持って行きますし、レンタルで済ますという選択肢も有り得ません。スマホ撮影をゲレンデスキーを楽しむことに、一眼で撮影することを競技スキーにかなり無理矢理置き換えれば、やはりその撮影に絶対必要な機材であればなんとしてでも持って行くんだと思います。


HUSY脚部のきほんの“き”

HUSKYの操作に慣れていない方は、三脚を設置する時にEVポストに刻んであるギアを被写体に向けて設置してみてください。この向きで左手でEVロックノブを緩め、右手でクランクギアを回してEVを上下させ、そのまままた左手でロックするのが使いやすいと思います。「エレベーターは使わない方がいい」という意見をよく耳にしますが(世間には“使えない”エレベーターを備えた三脚が多いのかもしれませんが)、HUSKYは積極的に使うべきと考えます。最初からエレベーターを10~15cmほど上げてセッティングをしておけば、構図の微調整の際に瞬時に下げられることも撮影には必要となることが多いものです。
このとき被写体を向いている脚を社内では第1脚と呼んでいます。他の2本は上から三脚を見下ろして、時計回りに右手側が第2脚、左手側が第3脚となります。まず脚部は開かず閉じたまま、カメラやレンズも装着せずに第1脚を伸ばし、先ほど書いたようにEVポストを少し伸ばしておおよその高さを決めます。このときに引き出した2段目の脚パイプをいっぱいまで伸ばさないこともポイントです(理由は後述します)。全伸ばしでの撮影もなくはないですが、どちらかというと目いっぱいまで伸ばして設置しなければならないことは少ないと思います。2段目パイプはいったん伸ばし切ってから、10~15cmほど引っ込めてロックするのが理想です。3段目以降のパイプは撮影に必要な高さまで伸ばしてください。
続いて第2脚・第3脚も三脚を閉じたままで第1脚と同じように伸ばしてロックすると3本の脚が同じ長さで揃います。完全な平地での撮影はこれで開脚させればいいのですが、傾斜地や段差がある場所では必要に応じて調整します。もちろん脚部はいっぱいまで開脚させて設置するのが鉄則で、中途半端に開脚させた状態での撮影は極端に不安定になり危険です。

そして三脚の水平出しに入るのですが、これができていないと雲台が水平にパンニングしてくれないだけでなく、三脚自体が非常に不安定になりブレの発生や最悪転倒の危険があります。三脚は適当に立てておいてレベリングベースや雲台側で水平を取ればいいと考えている方は三脚が不安定になっていることに気づかれないことが多いようです。
一般的には「雲台の底面が水平になるように」と説明されることが多いのですが、ヘッド一体型のHUSKYには雲台の底面というものが存在しませんので、EVポストが地面に対して垂直に立っているかを見る方がわかりやすいと思います。いろいろな角度から見ながら、必要に応じてレベラーを使用して、先ほど余裕を持たせた2段目パイプを伸縮させながら調整します。いっぱいまで伸ばしてしまっていると少し上げたいときに上げられず、仕方なく下の段で調整しようとすると大きくかがみ込む必要があるので、一番上のロックリングを緩めて2段目パイプを伸縮する方が圧倒的に楽で、細かい調整もしやすいと思います。これでようやくカメラ・レンズを装着して撮影に入る準備が出来ました。


力いっぱい締めないと止まらないHUSYは整備が必要です

おそらくほとんどの工業製品に共通かとは思いますが、全てのロックリングやロックノブは締め過ぎ厳禁です。金属同士が噛み合うネジ山部分は必要以上の力で締めるとどんどん摩耗してきます。ネジ山には必ず塗布されているグリースが切れていたり異物が混入しているとさらにそのスピードは速まります。HUSKYはあえて耐久性を重視した素材選定をしている部分があり、完全な新品状態では若干ロックが甘いような感覚があるかもしれませんが、各部品が馴染んでくるとどのロック部分もそれほど力を掛けなくてもキッチリ締まるよう設計されています。
たとえば脚パイプを引き出して金属ロックリングを締める際に、ギューッと渾身の力で締めないと止まらないのであれば樹脂製の内部ロックリングが劣化している可能性があります。樹脂部品は生産された時点から劣化が始まると言われ、20年30年モノのHUSKYを整備していると本来白いはずの内部ロックリングが黄色く変色し、半透明に色が抜けてしまっているものが結構あります。こうなると柔軟性もなくなり少し力を掛けただけで割れてしまうこともあり、パイプをしっかりと押さえることができずに滑ってしまいます。劣化が進んでしまった内部ロックリングは交換するしかありません。

逆に比較的新しい年式のHUSKYでも脚パイプのロックが甘い場合は、たいてい金属ロックリングを完全に緩めてずらしてみると、内部ロックリングにグリースや汚れが付着しています。この場合は内部ロックリングを取り外して(パイプの横から広げて外してOKです、それで割れるようなら完全に寿命です)プラスチックセーフタイプのパーツクリーナーで綺麗に拭き、各パイプも拭きあげてから組み立てると症状が改善するはずです。
内部ロックリングが正常であれば、脚パイプは手首を返すだけでキュッとロックされます。無理な力で締めたり金属のネジ部分に汚れが溜まっていたりグリース切れで使用されていると金属同士が摩耗し、ある日ネジ山を乗り越えて全く締め付けることができなくなってしまいます。摩耗した金属は元に戻せません(厳密に言えば修理は不可能ではありませんが工賃の方が高くついてしまいます)のでパイプと金属ロックリングの交換となってしまいます。

またEVストッパーノブもトラブルの多い箇所です。EVポストやロックノブの先端が汚れていたりグリースが付着していたりすると必要以上の力で締めないとEVポストが下がってしまうようになり、スチール製のオスネジとアルミ合金製のメスネジの対決ではスチールの圧勝で、アルミ側を一方的に削ってしまいます。限界を超えるとこれもまたある日ノブが空回りして全く固定できなくなりますので修理が必要となります。やはり時々はEVポストを三脚ボディから引き抜いての清掃と、EVストッパーノブを取り外して先端の白い樹脂部分が減っていないか、汚れがついていないかのチェックをしてください。

その“ある日”はたいてい撮影の最中ですから、日頃のメンテナンスは大事です。


ゴム部品は消耗品です

各段の金属ロックリングには握りゴムが巻かれており、脚パイプの先端には石突ゴムが装着されています。ゴムもやはり経年劣化します。握りゴムが伸びてしまってロックのたびにずれてくるのは操作性がよくないですし、石突ゴムも硬化すると滑りやすくなります。また三脚を移動する際に持ち上げずに引きずるようにして移動させる人は特に、石突ゴムが摩耗してきます。摩耗が進むとパイプが貫通してしまい、そのまま使用を続けると当然脚パイプに傷がつき、酷くなると切断しないと分解できない状態になっているものもあります。貫通しないように石突ゴムとパイプの間にコインを入れておくというお話を伺ったこともありますが、いやいやそこはパイプ径に合わせた金属ワッシャーでいいでしょうと思います。3段目パイプ25.4mm、4段目22.2mm、5段目は19mmでそれぞれの大きさのワッシャーは多めに買ってありますので、オーバーホールの際に装着することも可能ですのでお声がけください。

ただ実際、握りゴム1つ500円、石突ゴム1つ700円ですので延命策を講じるよりも劣化してきたゴム部品は早めに交換してしまうのが一番です。特に石突ゴムは硬化が始まると抜けやすくなり、気づいたらなくなっていたということもしばしばあるようです。握りゴムの着脱はさほど大変ではなく、前出のプラスチックセーフタイプのパーツクリーナーを少量吹き付けて滑りをよくしながら押し込めば簡単です。

石突ゴムを取り外すのが大変だというお話も伺いますが、コツさえわかれば円筒にゴムがかぶさっているだけで接着もされていませんのでこちらも非常に簡単です。まず最下段の1段上の脚パイプ(3段三脚の2段目、4段三脚では3段目)だけを10cmほど伸ばしてしっかりロックし、最下段のパイプはロックを緩めて完全にフリーにしておきます(図1)。次に最下段のパイプを引き出し、石突ゴムを握ってパイプを収納する方向に少し勢いをつけて動かすと、石突ゴムと金属ロックリングがコツンと当たります(図2)。最初は弱めに、コツが掴めてきたら少し強めにコツンコツンと何度も当ててみてください。石突ゴムがだんだん緩んで抜けてきます。当たっているのはゴムと金属ですから傷みを気にする必要は一切ありません。装着する際はやはり石突ゴムの内側にパーツクリーナーを少量吹きかけてから押し込むだけです。


曲がったパン棒は要交換です

ついつい長くなってしまいますがここからは雲台のお話です。HUSKYは雲台からパン棒が2方向に伸びており、もう1本EVギアのクランクシャフトも突出しています。もちろんもとは操作性を考えてこういう形状になっているのですが、もう一つ大事な役割があります。何かの要因で三脚が倒れてしまったときにカメラボディやレンズを守るために、その衝撃を曲がることで吸収してくれるような材質を選定しています。軽くするために柔らかいアルミ材で作ると折れるだけで衝撃を吸収してくれませんし、硬すぎる材質では曲がらずに跳ねてしまい被害が拡大する恐れがあります。カメラやレンズにダメージがあれば当然撮影の続行はできませんが、パン棒が少し曲がっただけだったりクランクギアが収納できなくなる程度で済めばその場は何とかなる可能性が高いですね。

ただ曲がったまま使用を続けているとスチール製のパン棒シャフトと真鍮製の内部ロックコマが平行に当たらず、この対決でもスチールの圧勝で、今度は真鍮側が一方的に負けてどんどん削れてきてしまいます。最終的には内部ロックコマを貫通してパン棒が直接連結ビボットや雲台ドラムに当たってしまいます。このような状態では固定力もコントロール性もあったものではないので、少しでも曲がった状態で使用を継続することはお勧めしません。

では曲がったパン棒を真っ直ぐに曲げ直せばいいかというとそうでもありません。一度曲がった金属を力で戻すと内部に細かいクラックが入り、その状態で締めたり緩めたりを繰り返すとクラックがどんどん成長し、これもまた“ある日”突然ボキッと折れてしまいます。撮影中にこうならないよう、やはり一度曲がってしまったパン棒はなるべく早く新品に交換してください。


意外と多いカメラ止ネジのトラブル

HUSKYのカメラ止ネジは雲台トッププレートには固定されておらず、下に少し重さのあるロックホイールがついているので、機材を外して持ち運ぶ際にカラカラと動きます。トッププレートに埋め込まれているインサートナットも同じ真鍮なので、あまりカラカラさせているとそれぞれ少しずつネジ山が潰れてきてしまいます(図3)。軽度であれば修正もできるのですが、あまりひどくなるとネジ山が噛み合わなくなってトッププレートから外すことが出来なくなってしまいます。

またこの状態で強い力が加わるとカメラ止ネジが曲がってしまいしっかり機材を固定することが出来なくなってしまうこともありますので、移動の際に一つだけ習慣としていただきたいことがあります。機材を取り外したあとにカメラ止ネジがカラカラと動くことのないように、先端が雲台トッププレートと面一になる程度まで引っ込めてから軽くロックリングを締めておく図4)。このひと手間でネジ山の潰れを防止し、撮影時の無用なトラブルの可能性が一つ減ってくれます。


コルクシートも消耗品です

HUSKYのコルクシートは厚さ0.8mmほどしかなく、平らな金属面にそのまま貼り付けてあります。よほどの悪条件でない限りこのコルクシートが原因で撮影結果に悪影響を与えることはまずありませんので、剥がして使用することはお勧めしません。凹凸に肉抜きした面の上に2~3mmもの厚さがあるコルクやゴムシートが貼られている雲台も見かけますが、根本的な設計思想が違うのでしょう。素材の時点からゴムを練り込み専用で作られるシートは非常に質がいいのですが、やはり天然素材なので年月とともに、使用とともに劣化してきます。正直なところ、薄さゆえの弱さがあることも事実です。新品状態では薄いオレンジ色(肌色という表記の方がイメージしやすいかもしれませんが今は差別的だとの指摘で使われませんね)ですが、劣化してくると茶色が濃くなってきて表面にテカリが出てきます。機材が滑りやすくなり、しっかり締めたつもりでも回転方向に回ってしまう可能性がありますので早めに貼り換えてください。

このコルクシート、今まで60年以上ずっとボンドで貼り付けられていました。年数が経過して固着してしまうと剥がすのもひと苦労だったりするのですが、パーツクリーナーでボンドを溶かしながらプラスチックのへらで根気よくこそいでいくと綺麗に剥がせます。ユーザーメンテナンスで貼り付けるときにどんな種類のボンドがいいのかというお問い合わせも多く、自己判断で瞬間接着剤を使用されたりすると次に剥がすときに大変です。また薄く均等にボンドを伸ばして確実に貼り付けるにも少々技術が必要でしたので、2023年からこの接着は両面テープに変更しました。ボンドと比較すると接着強度や耐久性は落ちてしまいますが、ユーザー目線ではより簡単に、積極的にコルクシートの貼り替えができるメリットの方が大きいとの判断です。機材を締め付けた状態で回転方向に大きな力を掛けると剥がれてしまったり角が欠けてしまうことがあり、また高温下では接着が弱くなる可能性がありますのでご注意ください。


しっかりと機材を固定する3ステップの締め方

正しい機材の固定方法についても、意外とご存じない方が多いようです。以下の3ステップで確実な固定が可能です。

1.機材を固定する場合(図ではクイックリリースクランプですがカメラボディやレンズでも同じです)には、図5のようにロックホイールは一番下まで下がっている状態で、カメラ止ネジのつまみを持ち、先端が機材の奥までしっかり入るように止まるまで回します図6)。

2.次にカメラ止ネジを半回転ほど戻し、雲台トッププレート側(カメラ止インサートナット)のネジ山とは噛み合っていないことを確認します(図7)。この時点でカメラ止ネジのネジ山は機材とロックホイールにしか噛み合っていません。

3.最後に片手でカメラ止ネジが動かないように押さえながら、もう片手でロックホイールだけを締め込んでしっかり固定します(図8)。ロックホイールが雲台トッププレートを押し上げる力は、機材とカメラ止ネジを下方向に引っ張る力となり、カメラ止ネジが僅かに伸びながら機材がトッププレートに押し付けられた状態で固定されます。この“伸びる”ことが重要で、カメラ止ネジが比較的柔軟性のある真鍮を使用して作られているのはこのためです。

使用方法と日頃のメンテナンスに少し気を遣っていただくだけで、HUSKY三脚は驚くほど長持ちし、使い勝手がよく、機材だけでなく撮影そのものを支える道具であり続けてくれると思います。是非とも長くお付き合いください。

(2024年8月)

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