カメラ・レンズを吊り下げるということ
改めてストラップについて考えてみる
ストラップの功罪
カメラを購入すると、当たり前のようにメーカーロゴや機種名が印刷されたり刺繍だったりされたストラップが付属してきます。超望遠レンズには専用のレンズストラップが付属されているものもあります。何の疑問も持たずに付属のストラップを装着する方もいれば、こだわりのある方はクッション性のある社外のものに交換したり、一時的に速射ストラップと呼ばれるものが流行したりと一定の需要があるようです。もともとカメラボディを首や肩から吊り下げる目的のストラップは運搬の用途としては必要なものですし、ストラップを使って少しでも撮影姿勢を安定させるテクニックもあります。しかしカメラやレンズを三脚に据えた瞬間からこのストラップは邪魔者となってしまいます。
三脚上の機材から垂れ下がったストラップが風を拾ってしまうことに起因するブレは特別な強風時でなくても頻発しますし、うっかりどこかに引っ掛けてしまって三脚ごと倒してしまうという事故も珍しくはありません。ご自分でなくても一瞬目を離した隙にお子さんが引っ張ってしまった、さらには犬が飛びついた! なんて話も伺います。とここまでは以前も書きましたが、先日はプロの方からクライアント(様)に三脚を倒されてしまって文句が言えない、といった悲しい声も伺いました。
今回の特集の結論は、「三脚に据えた時には長いストラップは取り外しましょう」と先に言ってしまいます。もちろんワンタッチで取り外せるストラップでないと現実的ではありませんが、実際使ってみると便利というよりもなくてはならないものという位置づけです。私も愛用者の一人で、自分のカメラボディにはハンドストラップしか装着していません。本題とはちょっと話がズレてしまいますが、このハンドストラップ相当イイです。
Camdapter CA-1 |
トップグレインレザー・ハンドストラップ PRO 非常に上質なレザーとナイロンベルトのベストな組み合わせ 荷重が分散されグリップを握る力が軽減し、安定した撮影が可能 |
KIRK セキュリティーストラップ SS-1N2
ワンタッチで取り外せるストラップに話を戻しますと、KIRKでは10年以上前からクイックリリースクランプがついたストラップを販売しています。カメラボディやレンズ三脚座がアルカスタイル化されていれば、クランプを介してストラップをワンタッチで着脱することが可能です。またクランプの両側にストラップホールがついているので吊り下げた時も機材が回転してしまうことがなく、移動から撮影に移行するのも非常にスムーズです。
クランプ部分は何度か改良が重ねられ、現在のKIRK製クランプは世界最高峰と言い切っていいと思っています。ただ正直なところ、以前はベルト部分の出来が普通というか、特筆するべき部分がないというか、もちろんクッションもつき滑り止め加工もされてはいたのですがあまり高級感がないというお声があったことも事実です。
この点は今回のリニューアルでカメラストラップとしては既に最高の評価を得ているOP/TECH(オプテック)社製に変更となり、世界最高のクランプと世界最高のストラップのコラボレーションが実現しました。両社ともアメリカ国内のみで丁寧に生産することにこだわっており、Made in USAタッグにより死角のないアルカスタイルストラップへと進化しました。お世辞抜きで本気でよくなりましたよ。
KIRK SS-1N2 |
セキュリティーストラップOP/TECH アルカスタイルのカメラマウント・レンズマウントに装着 OP/TECHとの最強タッグによりさらに進化しました |
新たな選択肢、MAGPULスリング
カメラ業界からもう少し視野を広げると、同じように肩から吊り下げるヒモ状の部品で、非常に大事なものを運搬するシステムが存在します。MAGPUL社のQD(Quick Disconnect)システムは兵士が自動小銃などを肩から吊り下げて移動し、同時に保持しながら射撃するための本物のスリングシステムで、ワンタッチで着脱が可能なうえに信頼性が非常に高いのが特徴です。実際の戦場に出かけることはなくても、プロのフォトグラファーにとっては全ての現場がカメラマンとしての生き残りが賭かった戦場であり、そこでなによりも優先されるべきものは信頼性だと考えます。
マグプル社はアメリカ海兵隊武装偵察部隊(フォース・リーコン)の軍曹だったリチャード・M・フィッツパトリック氏により1999年に設立されます。同社が最初に製造した、ライフルに銃弾を装填する弾倉(Magazine)を素早く引き抜く(Pull)ためのゴム製部品マグプル(MAGPUL)がそのまま社名となっています。
つい「それだけの部品?」と思ってしまいますが、戦場の極限のストレス下で素早く確実に作業ができることは命に直結するものです。近年は銃器そのものの設計も行う本物の銃器メーカーですが、軍人である彼が自分が使うための道具として銃器のアクセサリーを開発してきた姿は、やはりプロカメラマンとして自分が使いやすい撮影機材の開発を行ってきたKIRKの創業者マイケル・カーク氏の姿と重なります。
このQDシステムは、ソケットと呼ばれる溝加工がされた丸い穴に、スイベル(ベルトホールのついた回転する金具)中央の着脱ボタンを押しながら挿入するだけというシンプルさです。取り外す際にもボタンを押しながら抜く必要がありますので不用意に外れてしまう心配はありません。ベルト部分の長さ調整もスムーズで耐摩耗性も非常に高い素材が使用されています。キチンと規格通りにQDソケットが加工されていればワンタッチで確実にスリングの着脱ができるのは非常に便利です。
以前から銃器用・エアガン用のスリングとしてポピュラーなものですのでサバイバルゲームなどを楽しまれている方はご存じかもしれません。ただ軍用品の正規輸入ルートは限られておりやはり少し高価なため、レプリカやコピー品、悪意のある偽物も多く出回っていますので注意が必要です。もちろん信頼性も耐久性も実銃用に作られた“本物”の実物が一番であることは言うまでもなく、当然のことながら当店では本物しか取り扱いません。ちなみに銃器で使われる「スリング」とは「吊る」という意味で、カメラ業界で習慣的に使われているストラップ(広い意味で紐の意)の中でもショルダーストラップとほぼ重複します。
KIRKではこのQDソケットをカメラマウントやレンズマウントの底面に設け、MAGPUL製スリングやスイベルを直接装着できるような製品を今後は増やしていくとのことです。新製品はもちろん旧製品でも対応可能なものには積極的に装備されていくようです。もちろんKIRKのやることですからただ切削して穴をあけるだけという作り方はしません。装着するスイベルは金属製(リン酸マンガン仕上げ鋼)で自由に回転するものですから、十分な耐摩耗性を確保するためにステンレス製の別パーツを圧入するという徹底ぶりです。
また新たにQRC-1の中央にQDソケットを設け、MAGPULスリングにセットするとクランプ付きのアルカスタイルストラップとして使用できる製品QRC-1QDも発売されました。これでQDソケットが装備されていないレンズマウントやカメラマウントにも使用することが可能となり、さらに利便性は広がります。楕円形とD型の2種類の汎用QDスイベルも同時に発売となり、お手持ちのストラップをQDソケットに装着してワンタッチ着脱させることも可能です。
店長が本気でお勧めするカメラストラップシステムは、Camdapterの極上素材ハンドストラップCA-1と、アルカスタイルストラップが最強タッグで進化したSS-1N2に、新たにミリタリースペックのMAGPUL製QDスリングシステムが加わり、さらにきめ細かく対応できるようになりました。
フィルム時代はストラップでも“ニコン巻き”なんて結び方が流行ったこともあります。プロ用ストラップがプロでない人たちの間で高額で取引された時代もありました。今後はワンタッチで取り外しが可能なストラップを装着してみては如何でしょうか。メーカー製付属のストラップはいよいよ出番がなくなるかもしれませんね。
(2019年11月)
MAGPUL MAG-MS4 |
【MAGPUL】MS4デュアルQDスリングGEN2 QDシステムに対応したMAGPUL社製のQDスリングです 信頼性も耐久性も実銃・実戦用に作られた“本物”が一番です |
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KIRK QRC-1QD |
【KIRK】Newクイックリリースクランプ - QDソケット仕様 MAGPUL社のQDシステム規格のソケットが設けられたKIRK製クイックリリースクランプです 通常ノブ・爪幅1インチ(約25mm)・QDソケット仕様 |
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KIRK QD-OVAL |
【KIRK】汎用QDスイベル - オーバル(楕円)型 QDソケットにセットできる楕円型の汎用スイベルです お手持ちのストラップをQD化することが可能 25~30mm幅のベルトに最適です |
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KIRK KQD-DLOOP |
【KIRK】汎用QDスイベル - Dシェイプ QDソケットにセットできるD型の汎用スイベルです お手持ちのストラップをQD化することが可能 20mm幅以下のベルトに最適です |